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技術を尽くして全力で遊ぶ

宿屋はなぜそこにあるのか?~古のRPGゲーム制作論第1回~

はじめに

ゲームを作る前に制作論を振り返る

ゲームを作りたい! と思った時に情熱に任せてただやみくもに作り始めていませんか?
おそらくそれだと挫折するか必要以上に疲弊してしまいます。
ゲームに限らず、小説でもツールでも作り始める前に大まかな設計や方針を決めておくと何も準備をしない場合に比べて楽に創作をすることができます。

私も「ゲームを作りたい!」と思い準備を進めているところです。
それにあたって技術や知識の棚卸しをしていたところ、古い時代のRPGゲームの制作論を思い出しました。

うろ覚えなので正確な年代は不明なのですが、西暦1993年前後のものだと思われます。
私が当時触れた制作論の中で上がっていた作品例が、ゲームボーイ『ONI3』(1993年)やスーパーファミコン『ファイナルファンタジー5』(1992年)だったのでほぼ間違いないかと。

日本のRPGは1984年に発売された『ブラックオニキス』と『ハイドライド』が元祖です。 『ブラックオニキス』は3DダンジョンRPG、『ハイドライド』はアクションRPGです。どちらも独特なゲームシステムを採用しています。
『ブラックオニキス』はキャラメイクができましたし、『ハイドライド』は回復のタイミングを自分で調整することができました。
これらのシステムはプレイステーションやセガサターンの登場まで大衆には忘れ去られていました。
そのため、元祖ではあるものの日本のRPGの源流であるとは少し言いづらい部分があります。

現在のJRPGの基礎を固めたのは『ドラゴンクエスト』(1986年) と『イース』(1987年)の二作品です。
どちらも説明書を読まずに遊ぶことができるほど洗練されています。
そのとっつきやすさから、両作品のシステムを模倣した数多くの作品が世に生まれました。
それらは世界を旅しつつレベルを上げて敵対者を倒すという点で共通しています。
もはや一種のフレームワークです。
同じ土台を使っているため、「こうしたほうがいい」「どういうゲームが好まれるのか?」という経験則が様々な場所で散発的に語られていました。

当ブログでは、日本でRPGが製作されてから10年も経っていない時代に、雑誌のコーナーや制作者のコメントで伝えられていたRPG制作論の断片を記憶の片隅からかき集めて咀嚼しつつ形にしていこうと思います。

第1回目は『宿屋はなぜそこにあるのか?』です。
RPGに出てくる宿屋施設の配置を扱います。

今回の参考元は割合はっきりしています。今は廃刊した『MSX・FAN』という雑誌の1コーナーです。
『MSX・FAN』は私のゲーム体験の原点です。
知識や嗜好という面においても大きく影響しています。

今思うと短いながらも体系的なゲーム制作論を大衆に公開していた稀有な媒体でした。

『古のRPGゲーム制作論』シリーズの記事はアウトプットがメインのため、当時とテーマは同じでも内容の細部は異なります。
それでも良ければお付き合いくださいませ。

それでは本題に入ります。

宿屋はなぜそこにあるのか?

宿屋を置く理由

多くのRPGでは敵と戦うと体力や魔力が減っていきます。
体力がなくなればゲームオーバーとなり、魔力がなくなれば魔法や技が使えなくなります。

RPGの戦闘はコマンド選択式が主流なのでアクションゲームのようにプレイヤーの腕で敵の攻撃を回避することができません。ダメージは蓄積していき、放っておけば必ず道半ばで倒れます。
プレイヤーにゲームをクリアさせるためには体力や魔力の回復手段が必要となります。

そこでよく用いられる手段が安全地帯での全回復です。
敵が出ない町や領域を作り、その中で体力や魔力を回復させます。
日本のRPGでは『ドラゴンクエスト』や『イース』の影響が強いのもあって「町の宿屋」という形をとることが多いです。
RPGをしているとよく見かけるのでほとんどの方は何の疑問も持たずに自然に利用していると思います。
でも、深く考えてみると色々と不思議な点があります。

今回はその一つがメインテーマとなります。

私たちが街の中ですぐに宿屋を見つけることができるのはなぜなのでしょうか?

その理由を記載していきます。

宿屋の配置の法則

私たちは街の中で宿屋や回復ポイントをすぐに見つけることができます。
それはなぜなのでしょうか?

目立つ看板があるから?
確かに看板はありますがゲームによってデザインは異なります。
それでも私たちは迷わずに宿屋に辿り着くことができます。
どんなゲームでも宿屋に到達できる理由にはなりません。

道案内がいるから?
呼び込みや宿の場所を教えてくれる村人がいれば私たちは確実に宿屋に辿り着くことができます。
しかし、初めて訪れた町でも私たちは人と会話するまでもなく宿屋へと直行することができます。

結論から先に言うと宿屋の配置には法則性があります。
これを守っていればプレイヤーにストレスなく宿屋に辿り着いてもらえます。
また、廃墟となった何もないマップでも宿屋や回復ポイントの場所を推測してもらうことが可能になります。

町の入口が一つの場合

次の画像をご覧ください。

入口が一つの街
入口が一つの街

この画像は街のマップを表しています。
一番外側の四角形は街の囲いで通行不可です。
内側の正方形はそれぞれ一つの建物です。
そして、囲いの途中にある色付きの長方形は街の入口です。

さて、問題です。
この図の中で『宿屋』はどの建物でしょうか?
イラストに記載されている1,2,3の番号の中から選んでください。 直感で構いません。

正解は特にありませんが、ほとんどの方は1番と答えたのではないでしょうか?
ついで2番が多く、3番は少ないかと思います。

これが日本のRPGの様式美と言いますか法則性の一つです。

「宿屋は常に町の入口から近い場所」に存在します。

宿屋の位置については平成初期のかなり早い段階から結論が出ていました。
少なくとも、この件で異なる見解の文章を私は読んだことがありません。

この法則性にのっとって多くのRPGが街の入口の近くに宿屋を置いたため、子供の頃からRPGに親しんでいる私たちは最小の情報だけで宿屋の場所を推測することができるのです。

町の入口が複数の場合

先ほどは入口が一つでしたが、次のイラストのように入口が二つある場合も見てみましょう。

入口が複数の街
入口が複数の街

この画像も先ほどと同じように街のマップを表しています。
一番外側の四角形は街の囲いで通行不可です。
内側の正方形はそれぞれ一つの建物です。
そして、囲いの途中にある色付きの長方形は街の入口です。

今回は入口が上下に二つあります。
どちらの入口も利用頻度は同じです。
この場合の宿屋はどの建物になるでしょうか?

今回も正解は特にありませんが、利用頻度が同じ場合は全ての入口から等距離の建物が最もスマートであるとされています。
つまり2番です。
オープンワールドRPGでは街の入口が複数あることが多いため、よく2番が用いられます。

ただ、海外のゲームだと1番と3番の両方に宿屋を置くことも珍しくありません。
なんだったら2番はプレイヤーの拠点として第3の宿屋として機能することもあります。
選択肢の幅が広いです。
日本のメーカーが海外ゲームを真似てもJRPGになってしまうのはこういう部分にあるのではないかとも思います。

少し脱線してしまったので話を元に戻しましょう。

法則を外れるとき

今までは、宿屋は町の入口付近に配置した方が良いとしてきましたが、それを外れる利点もあります。
次の画像をご覧ください。

入口が一つの街
入口が一つの街

今までの法則を守るならば1番か2番に宿屋を配置するのが王道です。
3番に宿屋を配置するというのは邪道となります。 しかし、あえて邪道に突き進むことでゲームを盛り上げることができます。

入口から最も遠い3番の建物に宿屋を配置する利点は、ずばりプレイヤーへの警告です。
普段とは違う場所に宿屋を配置することで「何かイベントがあるのでは?」とプレイヤーに疑念を抱かせることができます。
この街に辿り着いたプレイヤーは、いつもより入念に街の人々に話しかけることでしょう。

具体的なイベントでは宿屋の地下にダンジョンが広がっていたり、泊まると魔物が襲ってきたりします。
宿屋の店主のセリフも普段と変えておくとなお良しです。

街の施設は利用頻度で配置が変わる

ずっと宿屋の話をしてきましたが、今までの話は『道具屋』や『武器屋』など全ての街の施設に当てはまります。
施設の利用頻度が高ければ高いものほど入口の近くに置くと良いとされています。
宿屋よりも頻繁に武器屋を利用するならば、入口付近には武器屋を配置するのが定石です。
プレイヤーの移動距離を無意味に長くしないことが肝要です。

以上、拙いですが第一回はこれにてお開きとさせていただきます。
つづく!