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技術を尽くして全力で遊ぶ

最小限の敵キャラから世界を作る~古のRPGゲーム制作論第5回~

温故知新

RPGで欠かせないのが倒すべき敵です。
一度でもRPGで遊べば、敵の種類が多岐にわたることに気づくでしょう。
さらに観察すると攻撃方法も種類ごとに違います。

遊ぶ分には良いのですが、いざ自分がゲームを作る側になると多くの敵を用意するのも、彼らが使う技を作るのも一苦労です。

ですがご安心を。 敵の数を最低限に抑えつつ、多彩な技を持っているように見せかける古代の知恵があるのです。
オマケに世界観だって整っちゃいます。 この知恵を使えば少ない作業量でコンパクトにゲームを設計することができます。

Windowsが台頭する以前の1990年代のパソコン雑誌にはアマチュア作家が投稿したゲームが載っていました。
しかもフロッピーディスク1枚に複数のゲームが収められていました。
容量の問題は今よりもシビアでしたが、大作RPGを掲載する猛者も中には存在しました。
そういった作品が載ると雑誌の購読者たちはその手法を研究しました。

ブログなんてものはまだ存在しなかったのでほとんどは記録されていないと思います。
今回は散逸してしまったノウハウを記憶の片隅から集めてみます。

敵はボスから作り始めよう

敵キャラを作る際にまずすべきなのは、必ず戦わなければならない敵をリストアップすることです。
必ず戦う敵のことを一般的にボスキャラと言います。
昔のアマチュアゲームを知らないとピンと来ないかもしれませんが、一度登場したボスキャラは後半の雑魚敵として使いまわすことがほぼ慣例になっていました。
なので意識して序盤からボスキャラに特徴を付けておくと後半の通常戦闘にもバリエーションを持たせることができました。

現代では容量の問題はほぼ解決されているので、ボスと同じ特徴を持つ雑魚敵を別途専用に用意するという方法が採れます。
以前のボスと似た特徴を持つパラメーター違いの雑魚敵をぜひ作りましょう。

また後述しますが個性的なボスキャラを最初に作っておくと、ボスが存在する地域やダンジョンを特徴付けしやすくなるというメリットもあります。
例えば、毒や火の属性を持つボスは、それにふさわしい毒沼や火山などのマップで登場させたいと思いませんか?

RPGの世界はボスキャラを中心に形を作っていくと無理のない形に自然と整っていきます

ボスの基本は大艦巨砲主義

さて。後半にも使いまわせて、なおかつボスキャラとしてそこそこ手強い特徴を持つ敵を作るにはいくつかのコツがあります。
そのコツの最たるものは最初に対峙する時点で大鑑巨砲主義のごとく火力満載の大型の不沈艦であることです。

しぶとい体力

多くのボスキャラは通常敵との差を出すために高い体力を有しています。
何度攻撃してもなかなか倒れません。
高い体力を持つということは、後半のパワーアップした主人公ともある程度渡り合えるということを意味しています。

ただし留意する点があります。
ここでいう高い体力というのは昔の8ビット機での基準です。
つまり数値の最大値が”255”の時代の話です。

現代ではゲーム機の数値の限界値は京の桁を超えており、事実上の無制限となっています。
ボスキャラと雑魚敵の体力値の差が一千倍を超えることも多く、その場合は後半の雑魚敵として登場させると無理が出ます。
現代においては、体力についてはボスキャラと後半の雑魚敵を別に設計する方が無難です。

高い火力

ボスキャラは一般的に強力な攻撃能力を持っています。
最初に対峙した時は一撃で主人公を瀕死に追いやっていた攻撃も、レベルアップによる防御力の上昇や後々に手に入る防具で調整することで後半には程よいスパイスになり得ます。

ボスが行う攻撃の種類は物理攻撃を主にすると後が楽になります。
高い攻撃力の値から繰り出す物理攻撃ならば、主人公の防御力の数値を上昇させるだけでダメージを調整可能だからです。
どんなに強い攻撃をするボスを出したとしても、主人公の防御力しだいで後半のどの段階にも雑魚敵として投入できます。

もし魔法などの特殊な攻撃を主力に据える場合は少し工夫が必要です。
物理攻撃の場合は攻撃力よりも防御力を高くすればダメージを0にすることができますが、一般に魔法攻撃ではそれができないからです。
多くの場合、魔法などの特殊な攻撃には固定ダメージ30などのようにダメージの最小値が設定されています。
これらは固定値なのでレベルや防御力を上げてもダメージは減少しません。

ダメージを減少させるにはゲームのシステムに属性を付与したり、ダメージ軽減効果を持つ装備などの要素を登場させたりしなければなりません。
その分ゲームのシステムが複雑になるので、ゲームの製作工数は指数関数的に激増します。また、容量も厳しくなります。

昔のアマチュアゲーム作家は労力を減らすために魔法などの特殊な攻撃については主人公の体力を増加させることで対処しました。
受けるダメージの軽減をあきらめる代わりに、攻撃を受けた時の影響を相対的に少なくしていたのです。

低い回避能力

一般的にボスキャラの回避能力は低いに越したことはありません。
攻撃が当たらないと倒せないからです。

ボスキャラの回避能力を高く設定する場合は必ず対処法もセットで用意しましょう。

ボスの特徴から世界を作ろう

ここからは特徴のあるボスから世界を作る例を考えてみます。

定番の毒の沼

もし毒を使うボスキャラを置くと決めたなら、その特徴にあった地形を作りましょう。
定番なのは毒の沼や暗殺ギルドなどでしょうか。
ここでは毒の沼で考えます。

その毒の沼はどこにありますか?
平原の真ん中?
山の側?

その沼はなぜできたのでしょう?
ボスキャラが来たから?
最初から自然に?

ここまででもボスキャラの特徴が世界観に直結することがわかると思います。
さらに続きます。

毒沼の近くの住民は毒に対してどんな対応策を取っていますか?
その対応策を主人公が行うには何が必要ですか?

ボスキャラの設定を考えるだけで村どころか住民の生活まで垣間見えてきました。
これを積み重ねていくと世界に生命が芽生え始めます。
戦闘のバリエーションも増えて一石二鳥です。

可能ならば状態異常毎にボスキャラを作ることをオススメします。
そうすれば、各状態異常の効果や対処法を自然にプレイヤーに伝えることができます。

何よりもボスキャラの特徴付けをしやすいです。

もしゲームに属性を取り入れるなら、属性メインのボスキャラは一体いれば十分です。
プレイヤーに『炎属性には水属性が効く』等の相克関係を一度理解させれば事足りるからです。
各属性のボスキャラを登場させるのも一つの手ですが、毒や石化などの状態異常ほどには変化の幅がないので戦闘がワンパターンになります。

ストーリーで必須などの特別な理由がない限りは状態異常がメインのボスキャラを優先して世界を形作っていきましょう。

回避率が高いボスキャラ

先ほどボスキャラの回避能力は低い方が良いと書きました。
しかし他とは違う特徴を付けるために回避能力に長けたボスキャラを作りたい場面もあるかと思います。
この場合ボスキャラに攻撃を当てるための方法を用意する必要があります。
いくつかの方法が考えられるので少し見ていきましょう。

ボスキャラの特徴は『素早い忍者』としておきます。

一つ目は装備や技で主人公の命中率を上げる方法です。
この方法は主人公側での調整なのでRPGに不慣れな人にもわかりやすいのが特徴です。
素早い敵に対して自分もパワーアップするというのは戦闘の王道です。
正々堂々としているので、主人公にどんなキャラや性格付けをしていても世界観に無理が出ません。
修行イベントなどをボス戦前に挟むと良いかもです。

二つ目は搦め手を用いてボスキャラの回避率を下げる方法です。
煙幕や落とし穴などの罠や敵の時間を操作するスロウやストップの魔法が主な手段になります。
敵に対しての調整なので効果が目に見えづらく、RPGに不慣れな人には詰みの原因となる危険性があります。
ボス戦の前にチュートリアル戦闘のようなものをワンクッション設置しておきましょう。

命中率を下げる方法は、主人公の命中率を上げる方法と比べて後ろ暗いです。
人によっては卑怯な印象を与えてしまうので世界観とのすり合わせが必要です。
子供向け番組で正義の味方は煙幕なんてめったに使いませんよね?
今回の場合はボスキャラを忍者と仮定しているので、主人公側に抜け忍がいるという設定あたりでつじつまを合わせられそうです。

二つ目の方法を採用すると考えることや作業が増えます。
特別な理由がなければ主人公の命中率を上げる方向で調整しましょう。

ボスに似た特性の雑魚敵を作ろう

ボスキャラができたなら次は通常の雑魚敵です。
ゲームの難易度に直結するので難しく考えがちですが、要するにボスキャラの子分を作ってあげればいいのです。
毒の沼にいるボスキャラの子分ならば、毒ガエルなどが妥当でしょうか。
子分はボスの劣化版にしましょう。
主人公がボスと対峙する前の模擬戦をさせるのです。
極端な話、一つの地域にはボスキャラとその子分が一種類だけいればRPGとしての体裁は整います。
子分以外の他の通常敵は単なる賑やかしです。

昔の雑誌投稿のゲームではどんなに容量が厳しくても一つの地域に最低でも二種類は通常敵が用意されていました。
通常敵が一種類ではプレイヤーが飽きてしまうからです。
一種類はボスキャラの子分、もう一種類はレベルを上げて物理で殴れば簡単に倒せる雑魚の組み合わせが多かったように思います。

一つの地域を構成する敵の最低限の種類は

  1. ボスキャラ
  2. 子分
  3. 雑魚

の三種類に絞ることができます。
これを意識していれば無限に敵の種類が増えることもなくなることでしょう。

対応策を用意する

ボスキャラや通常敵に特徴を付けたのなら必ず対応策を用意しましょう。
例えば毒状態には『毒消し草』や『毒を消す魔法』で、主人公の状態を回復させるといった具合です。
他には毒状態を防ぐ防具や技なども考えられます。
これらの対応策は可能ならば後の戦闘でも使用できる方法が望ましいです。
後半に毒を使う敵を再登場させた場合に、同じ対応策をプレイヤーに採らせることができるからです。

ボスキャラごとに特徴を付け、それ毎に対応策を設けることでゲームが進むにつれて世界観の広がりとともに主人公の行動のバリエーションをどんどん拡大させることができます。
こうすることで小規模なゲームであっても、ある程度のゲーム性が担保されます。

それでは今回はここまで。 つづく!