雑魚敵とダメージ
前回はダメージが単純な概念であることを記しました。
今回はランダムエネミー、いわゆる雑魚敵の固さとダメージについて記します。
このページでの"ダメージ"は全て蓄積ダメージのことを指します。
敵の強さをダメージから考える
前回の『ダメージとは体力が増減するだけの概念』、『ダメージと体力以外は戦闘結果に影響がない』 という考え方を用いると、敵の強さも単純化することができます。
強い敵とは
相手に与えるダメージが多い
自分自身が受けるダメージが少ない
体力が多い
という三つの性質を兼ね備えています。
これらの性質を逆転すれば雑魚敵を作ることができます。
一般的な雑魚敵は出会って数ターンのうちに、すぐ倒せることが多いです。
このような雑魚敵は雑魚敵自身が受けるダメージが多く、体力が少なく、相手に与えるダメージが少ないことがほとんどです。
ところで、中には強い雑魚敵も存在します。
古いですが、過去のゲーム(『新桃太郎伝説』)に実在する現在体力が最も低い味方を狙って会心の一撃を叩きこんでくる雑魚敵が最もわかりやすい例でしょうか。
この場合雑魚敵自身が受けるダメージと体力の二つの性質だけが弱く調整されており、相手に与えるダメージは強い敵の性質を有しています。
このように強い敵の条件を一つでも与えると"強い雑魚敵"を作ることができます。
ダメージで戦闘を捉えると、全ての敵はシンプルに設計されています。
それは現在のRPGでも同じです。現在のRPGについては後述します。
雑魚敵の固さ
では雑魚敵の強さはどのくらいが適切なのでしょうか?
ダメージで考えてみましょう。
前回述べたように戦闘は相手の体力が蓄積ダメージ以下になったら勝敗が付きます。
シンプルに捉えると相手に与えるダメージ量の差が勝敗に直結します。
このため、味方が勝ち進むためには与えるダメージ量を敵よりも多くしてあげる必要があるとわかります。
ダメージの総量を増やすために良く使われる手段が「パーティの結成」です。
味方の数を増やせば手数が増えます。
手数が増えれば相手に与えるダメージも増えるという算段です。
昔から、敵の固さを味方の手数で決めるというアマチュアゲーム製作者も少なくありませんでした。
とてもシンプルでわかりやすい考え方なので調整しやすいからです。
味方の手数と雑魚敵
手数を元に戦闘のバランスを取ろうとした場合、前回の
物理ダメージ = 戦士の人数 × 味方戦士の攻撃力の平均値
魔法ダメージ = 魔法使いの人数 × 魔法の威力
の考え方が役に立ちます。
魔法の威力は30などの固定値とします。
戦士職と雑魚敵
RPGでの戦いの主役は戦士です。
雑魚敵相手に戦士の攻撃は欠かせません。
敵の固さの一つの基準として
物理ダメージ=敵の体力
というものがあります。
これを採用すると攻撃力が高い戦士は敵を一撃で倒せます。
攻撃力が低めの戦士は自分の攻撃と味方からの援護でようやく敵を倒せます。
とても簡単なのになかなかバランスがとれていると思いませんか?
魔法職は添え物
戦闘には魔法使いも参加します。
敵の固さを物理ダメージ基準で決めた場合、魔法使いは戦士が打ち漏らした敵の掃討が仕事となります。
魔法ダメージは魔法使いの人数 × 魔法の威力で決まるため、魔法使いの人数か魔法の威力を考慮するだけで戦闘の難易度を調整することができます。
敵をたくさん出すなら複数の敵を攻撃する魔法を使って、攻撃力が低い戦士でも一撃で倒せるようにあらかじめ敵の体力を減らす工夫が有効です。
また、範囲攻撃を使う魔法使いが複数人いれば、魔法使いだけで敵をせん滅することも可能です。
魔法使いは変幻自在です。
プレイヤーにどのような戦闘を繰り広げさせたいのかは魔法使いの人数と魔法の威力を調整して決めると良いでしょう。
回復もダメージの一部
ところで前回のダメージは数値で表現できるという性質を思い出してください。
今までは相手に与えるダメージばかり考えてきました。
これは全て正の整数です。
数学的に考えると数には負の整数も存在します。
正のダメージが蓄積ダメージを増やしていくのなら、負のダメージはその反対です。
負のダメージは蓄積ダメージを減らす方向に働きます。
負のダメージは一般的に『回復』と呼ばれます。
意外に思われるかもしれませんが回復もダメージの一部なのです。
攻撃と回復が正と負の関係にあることを意識するとより柔軟に戦闘を設計することができます。
今回は敵の固さについての話がメインなので割愛します。
味方が敵よりも圧倒的に強くなった場合
ゲームが進み、味方強くなってくると敵との戦力差がどんどん開いていきます。
この状態で戦ってもあまり面白くありません。
普通に戦っても得るものも少なく時間だけが過ぎていきます。
味方が敵よりも圧倒的に強く、一瞬で決着がつく場合には昔から様々な工夫がされてきました。
例えば戦闘中に敵が逃げ出すようになったり、敵と接触した瞬間に戦闘が終了して報酬がもらえたりします。
味方と敵の戦力差は多くの場合味方のレベルで判定されますが、
物理ダメージ > 敵の体力
のような形で判定すると実際の戦闘結果を反映することができ精度が増します。
ダメージからの設計は現代のRPGでも使える
敵の固さに関する考え方は複雑になっていますが、根本は現代でもあまり変化していません。
現代のRPGは戦闘の過程が複雑なので昔と設計思想が全く違うようにも思えますが、冒頭で述べた強い敵の性質を念頭に戦闘の流れを追っていくとただの変化球であることがわかります。
最近のRPGの戦闘例
話を進めるために、まずは最近のRPGでの戦闘例を確認します。
味方が敵を攻撃する
攻撃された側はバリアの一部がはがれる
何度も攻撃され、バリアが全てはがれると敵の体力にダメージが入るようになる
味方が敵を攻撃し、せん滅する
結構複雑です。
この例ではバリアがはがれるまで敵にまともなダメージが入りません。
このゲームのランダムエネミーは
- 自分自身が受けるダメージが少ない
という性質を持つ『強い雑魚敵』として会敵直後は君臨します。
しかし攻撃の手数を与えることでバリアが削られていき、最終的には『弱い雑魚敵』に変化します。
弱い雑魚敵になると何度か攻撃するだけで沈みます。
こうなると旧来のRPGとあまり変わりません。
手数の調整方法が違うだけ
これだけで気づいた方もいらっしゃると思います。
最初にバリアを削らせるのは手数を調整しているだけです。
単純に言えば、
- バリアの体力にダメージを与えて倒し、
- 敵の体力にダメージを与えてせん滅
しているだけです。
つまり、味方は敵を二体倒しただけです。
それでも『バリア』という形を取らせているおかげで戦闘バランスに他のゲームにはない変化が生まれています。
万能というわけではないですが、ダメージを中心に設計することで様々な戦闘を生み出すことができます。
戦闘の仕組みを思いついたらまずはダメージの概念で考えてみてはいかがでしょうか?
どんな複雑な仕組みでも、きっとシンプルな道筋が見えてくるはずです。
それでは今回はここまで。 つづく!