前回までは各段階でのバランスの話でした。 今回はぐるりと変わってダンジョンと宝箱のお話です。
ダンジョンと宝箱
ダンジョンには宝箱が置かれています。
もし「なぜ置かれているのか? 」と問われたら答えることができますか?
「それはそういうものだから」と、思考停止をしていないでしょうか。
あらかじめ断っておくと明確な答えは存在しません。
あえて言うなら日本でRPGゲームが興隆する前からのお約束というのが最も正解に近いです。
ただ、それだと答えになっていません。
なぜ”お約束”として定着しているのか説明がつかないからです。
未だに正解が導き出されていない命題ですが、ヒントになりそうな事例や試みがいくつか存在します。
ダンジョンにおいて宝箱がどのような役割を持っているのか、少し見てみましょう。
もしもダンジョンに宝箱がなかったら
もしもダンジョンに宝箱が一つもなかったらプレイヤーはどのような感想を抱くでしょうか?
幸いにも、ダンジョンが存在するのに全く宝箱を配置しなかった市販のゲームが実在します。
そのソフトの名前は『鬼忍降魔録ONI』と言います。
ゲームボーイで最も有名なRPGシリーズの第一作目です。
色々粗がありますが、私はこのシリーズのファンです。
シリーズ二作目からは配置されましたが、一作目のダンジョンには一切宝箱が配置されていません。
どんな意図があってこのような仕様になったのか定かではありませんが、プレイヤーからは不評でした。
ただ宝箱を置かなかったばかりに他のプラス要素が霞んで見えました。
挙句の果てにはゲームの不備扱いされる始末。
それも致し方ないことだと思います。
体験したことがないとわからないかもしれませんが、ダンジョンに潜ってすることが敵と戦うだけというのは、精神的にかなり辛いものがあります。
もしこのゲームのダンジョンに一つだけでも宝箱が配置されていたら評価がかなり違っていたことでしょう。
ダンジョンに宝箱がないということは、人間にとって強いストレスを引き起こします。
逆に考えると殺伐とした場所に降臨した一種の清涼剤の役割を宝箱の存在は担っているとも言えます。
宝箱は道しるべ
ダンジョンの中で宝箱は異質な存在です。
なぜそこにあるのか?
なぜアイテムが入っているのか?
時にはダンジョンの雰囲気と不協和音を起こして場違いな感想を持たせることだってあります。
違和感の有無については置いておくとして、ダンジョン内での宝箱の存在感はプレイヤーに強い印象を与えます。
どんなに複雑なダンジョンの中でも、宝箱の場所だけはきっちりプレイヤーは覚えています。
それは宝箱に至るまでの道も同様で「この道は通ったことがある」とプレイヤーは気づいてくれます。
ダンジョンに宝箱を配置することでプレイヤーは格段に迷いにくくなります。
迷いはしますが、同じ場所をループするような迷い方はしなくなります。
もしも広大なダンジョンに宝箱がなかったらどうなるでしょうか?
先ほど紹介したゲームにおいて、ダンジョンに宝箱がないことがシステムの不備とまで評価された理由の一端がわかるかと思います。
不正解の道の突き当りに宝箱を置く
まだ国産RPGが登場して10年程しか経っていない1993年当時からダンジョンの行き止まりに宝箱を置く必要性はあらゆる場所で説かれていました。
前述のソフトのおかげで宝箱がないとプレイヤーはダンジョンを隅々まで探索してくれないことが判明していました。
不正解の道を回避し一直線にダンジョンの奥を目指すのです。
この結果、プレイ時間は大きく減少し、せっかく作り込んでいてもプレイヤー満足度が低いものになってしまいます。
不正解の道の先に一つの宝箱を設置するだけで、プレイヤーは全てのダンジョンを隅々まで探索してくれるようになります。
たとえその報酬が少ないものだとしても関係ありません。
プレイヤーは本人や製作者達が思っている以上に宝箱を求めているのです。
宝箱の中身はプレイヤーにメリットがあるものにする
宝箱の中身をどうするのか? という課題も古くから検討されてきました。
基本的には武器やお金などのプレイヤーにメリットのある中身が最適だと言われています。
また、何も入っていなかったり罠が発動する「ハズレ」の宝箱もゲームを面白くする上で有用だとも言われています。
ただ、私はハズレの宝箱を昔のアマチュアゲームで見たことがありません。
容量的に余裕がなかったこともあるかと思いますが、面白さの演出として必須ではないということだと思います。
特別な理由がない限り宝箱の中身は有用なものにしておく方が無難です。
愚かな人間どもに混沌を
宝箱を探す際のプレイヤーは強欲です。
時に判断を誤ってダンジョンの奥深くに進み、帰らぬ者になることも珍しくありません。
ダンジョンを作るのなら、宝箱を求める人間の本性を大いに活用し翻弄してあげましょう。
世界征服を企む魔王の気持ちに近づけるかもしれません。
それでは今回はここまで。つづく!