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技術を尽くして全力で遊ぶ

バランス概論(4)終盤のバランス調整~古のRPGゲーム制作論第9回~

前回は中盤の中だるみ対策とバランスについての話でした。
今回は終盤です。
終盤で最も警戒すべきことは序盤と同じくプレイヤーのゲーム放棄です。

終盤の敵は殺意を高めすぎない

昔のRPGでは、終盤の敵が急に強くなりプレイヤーがゲームを離脱する事態がよく発生していました。
私も例外ではありません。
なかでも印象に残っているのはMSX版の『クリムゾン』です。
本シリーズはおそらく日本のホラーRPGの始祖ではないでしょうか。
本作は極悪難易度のRPGが渦巻く当時のパソコンゲームの中では戦闘バランスが良い作品でした。
しかし、ラストダンジョンに辿り着くと状況が一変します。
今までとは打って変わって殺意の高い通常敵が一斉に襲い掛かり、レベルを上げて準備万端に整えても運が悪いとボスに辿り着けないのです。
こちらは可能な対策を全てとっているのに、どうやってクリアするのかと当時は憤慨しました。

終盤で急に戦闘の難易度を上げる場合は、少し加減をしましょう。
作り手が大丈夫だと思っていてもプレイヤーはついて来れないことがあります。
第7回の序盤の話で述べたように、不屈の闘志を持ってゲームと向き合っているプレイヤーはごく僅かなのです。

攻撃手段は加減無しでも大丈夫

今までの冒険で主人公は様々な特徴を持つ敵と戦い、それらの攻撃への対応策を蓄積しています。
終盤の戦闘ではそれらの攻撃手段を一気に再登場させましょう。
これまでの冒険の集大成として襲い掛かる多彩な攻撃は、プレイヤーの記憶を刺激し、成長を実感させます。
これまでの戦闘の全てに意味があったのだと、全力で知らしめましょう。

この方法をとると戦闘のテンポが悪くなることがありますが、アマチュアが作る規模のゲームでは問題になりません。
どんどん登場させましょう。

テンポが悪くなる場合は複数の対抗手段をまとめる

もし多彩な攻撃を再登場させて戦闘が面倒になるようであれば、対策の手段をまとめればよいだけです。
たとえば毒の攻撃や麻痺の攻撃にそれぞれ対応するとします。
それで戦闘のテンポが悪くなるのであれば、『毒回復』と『麻痺回復』をひとまとめにして『全状態異常回復』などの手段を用意してあげればプレイヤーの操作の負担は大幅に減ります。

終盤の敵の殺意の正体

終盤の敵の殺意の正体は物量です。
強くなった主人公たちにとって個々の通常敵はどんなに能力値が高くても屠ることのできる存在です。
ではなぜ終盤の通常敵が脅威になるのかというと、終盤は会敵する回数が圧倒的に多くなり、回復手段が追い付かなくなるからです。

終盤のマップは長くなることが多いです。
作品によっては仕掛けも満載でなかなか先に進めません。
そんななかで戦い続けると、いくら強くなった主人公といえども消耗していきます。
消耗すると回復手段が減り、最後には枯渇します。
そうなるとタコ殴りにされるしかありません。
打つ手なしです。
これが終盤の敵の殺意の正体です。

回復手段が担保できるなら極悪難易度でも許容される

前回の中盤の話の中で『戦闘時以外全回復するアイテム』が昔のアマチュアゲームでは登場することがあったと記述しました。
これは、その後の急激な難易度の高まりに対しての救済措置であり、当時の製作者達の知恵でした。
回復手段の充実とプレイヤーに許容される戦闘の難易度の関係については1990年代から結論が出ており、両者が比例することを計算に入れての措置でした。

プレイヤーの最終レベルは”一応”推測可能

ラスボスまでにプレイヤーはどこまでレベルを上げてくるでしょうか?
これを推測できるとラストダンジョン付近でのバランス調整が容易になります。
一応これにも答えはあります。
最も経験値の期待値が多い場所で30回戦闘を行なってもレベルアップなどの恩恵が受けられなくなる段階
でプレイヤーはレベル上げの手を止めます。
”一応”というのは経験則だからです。

昔から、小規模なアマチュアゲームにおいては同じゲームをクリアしたプレイヤーの最終レベルにほとんど差がないという現象が知られていました。
だからこそ攻略レベルの目安などのアドバイスがインターネットもない時代に雑誌の投書コーナーなどで行われていました。
最終レベルがほぼ揃う原因は不明です。

ここからは私の推測ですが、プレイヤーが最後のレベル上げをする場所はだいたい決まっています。
つまり、戦闘で得られる経験値の期待値は全員同じです。
また、ベストセラー本で紹介された25分で作業を刻むポモドーロテクニックで有名になった説として、人間が連続して集中できる時間は30分もないと言われています。
(ポモドーロテクニックについて詳しく知りたい方は下記の書籍をご覧ください。 )

昔のゲームは一度の戦闘時間にほとんど差がありませんでした。
人間が集中力を保つことができる時間内に戦える回数が30回だったのではないかと推測しています。
レベル上げをする場所と費やすリアル時間がほぼ同じであれば、獲得する総経験値量もほぼ同量になるはずです。
この結果、最終レベルがならされたのだと私は考えています。

ラスボスの能力とゲームのコンセプトが離れないようにする

終盤は製作者がどのようなゲームを作りたかったのかが如実に表れてきます。
難しいゲームを作りたいのなら難しく、派手な技で無双させたいのなら大味にetc...といった具合です。

そして、ラスボスは製作者の思いを一心に引き受ける存在です。
ここでありがちだったのが極端に強いラスボスを作り上げてしまうことです。
ラスボスが倒せないというのは、昔のアマチュアゲームではよくある光景でした。
強い敵に苦戦してほしいという思いは理解できますが頭を冷やしましょう。

せっかくそれまで知略で難敵たちをなぎ倒してきたプレイヤーに、レベルを上げて物理で殴ることを強要していないでしょうか?
運でしか切り抜けられない攻撃を仕掛けていないでしょうか?
それがゲーム全体のコンセプトとして一貫性を保っているのなら良いですが、ラスボスでだけプレイヤーに別のことを要求していませんか?

ラスボスもゲームの世界の住民です。
ゲームのコンセプトから遠く離れないように気を付けましょう。

今回は心構え的なものが多くなりました。

終盤で最も警戒すべきことはプレイヤーのゲーム放棄です。
最序盤と終盤で訪れるこの試練は多くのアマチュアゲーム製作者が失敗を経験してきました。
ここまで色々書いてきてなんですが、現代はフリーゲームであってもクリアまで遊べるRPGがゴロゴロ転がっていることに隔世の感があります。
今回の記事は、もしかしてわざわざ記述しなくても常識になっていることなのかもしれません。

それでは今回はここまで。つづく!